十章のタイトル(´゚д゚`)
オープニングまでさかのぼるお話ですね(´・ω・`)
十章―恩威並行を忘れず#15(終) 平安樓
平安樓へ着くと、会長は先にお酒を飲みなが待っていた。
春日はご飯どころではなく、会長と荒川真澄の関係が気になって仕方がなかった。
☆
会長はゆっくりと話し出す。
異人町の偽札は戦後まもなくから人知れず作られていた。
それは先代の星龍会と横浜流氓の一握りの幹部だけが知る極秘の事業だった。
ただしその他にも何人か偽札の運び屋を雇っていた。
そのうちの一人が役者だった男―荒川斗司雄。
荒川真澄の父親だ。
ある時荒川斗司雄はトランクいっぱいに詰めた1億あった偽札を紛失したと言ってきた。
それは理由がどうあれ許されることではない。
星龍会はケジメをつけなければならなかった。
しかし偽札を知る人物は一握りの幹部だけ。
だから先代はいずれ組の跡目になる星野会長にその役を命じた。
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あとで知ったことだが、偽札が紛失したのは荒川斗司雄の妻とその愛人が盗んだからだった。
二人は海に沈んで消え、死体もあがらなかった。
荒川真澄は両親を一度に失い、一座も解散。
流れ者になった先に行き着いたのが、神室町の極道だった。
荒川真澄が入ったのは東城会の枝の氷川興産。
そこは殺しも平気で請け負うようなキツい組だった。
だから氷川興産はしょっちゅう死体の処理に追われていた。
それに当然荒川真澄も手伝わされていたのだが、ただその死体の始末にわざわざ異人町のホームレス街を使うようになっていった。
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それは少しでも横浜に来る機会を増やすためだった。
そうすれば父親が殺された街で犯人探しが出来る。
荒川真澄は異人町に通っては執拗に前科者や極道の顔を探し続けた。
手がかりはたったひとつ
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そして事件から7年が経ったある日、星野会長のもとにこの平安樓への招待状が届いた。
差出人は『荒川真澄』
素性を隠す気もないその手紙に、会長は逃げられるものじゃないと悟った。
だから会長はボディーガードも付けず、たった一人で招待に応じた。
会長はきっと殺されるだろうと思った。
しかしどのみちろくな死に方の出来ない稼業、あの時の子供に殺されるのならマシなんじゃないかと……。
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まだ20歳を過ぎたかどうかっていうその目は、もう何人も殺めて荒み切っていた。
そして会長はなぜ荒川斗司雄を殺らなきゃならなかったのか、その理由をありのままに伝えた。
どうせ殺される身。
異人町の秘密だった偽札のことも全て話した。
その間、銃口を向けている荒川真澄はいつでも好きな時に会長を殺せたはずだった。
☆
1984年、日本の万札は聖徳太子から福沢諭吉に変わった。
その時自分の組を持つまでになっていた荒川真澄に会長は贈り物をした。
わざわざ裏面を白紙にした特注のエラー品の、福沢諭吉が描かれた偽札。
☆
星野会長は荒川真澄の招待を受けたあの日、殺されるはずの人間だった。
だが荒川真澄は星野会長の命を取らず、胸につかえていたものさえ消し去ってくれた。
それだけでなく、異人三の均衡を保つことも彼のおかげで続けられたと言っても過言ではない。
荒川真澄には途方も無い恩を受けたが、ケジメの気持ちも忘れてはならないとずっと思ってきた。
そのエラーの偽札は、その気持ちの印だ。
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だがその秘密が保たれ、ずっと異人三が成り立っているのは荒川真澄のおかげだという気持ちと、そしてもし星野会長を生かしておくことが見込み違いだと思うことがあれば、「いつでもそいつを使って俺を好きにすればいい」
「その二つの気持ちがそれなんだよ」
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賞や罰を常に適切に与えられるという様子を例えた言葉。
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しかし今、その偽札を持った男が目の前に現れた。
それは星野会長にだけ分かる、荒川真澄からのメッセージに他ならない。
☆
荒川真澄もその偽札の大事さは理解しているはず。
だがそれを手放し、春日に託した意味を理解するべきじゃないのか?
だとすれば、神室町で春日を撃ったのは荒川真澄の本意ではなかったと考えるべき。
殺すために撃ったのではなく、春日を生かし、星野会長の元へたどり着かせるために撃った。
☆
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